扇子: オオノ先生!最近、日本政策金融公庫の新しい制度について聞いたんですが、少し混乱しています。これまでも「新創業融資制度」と「新規開業資金」という2つの制度があったと思うんですが、そもそもこの2つの制度の違いもよくわからなくて…。
オオノ先生: たしかに、ちょっと分かりにくいかもしれませんね。
この4月に日本政策金融公庫が「スタートアップサポートプラザ」というものを新設し、スタートアップ支援に力を入れることを発表したんですが、この発表資料の中に「日本公庫のスタートアップ向け融資制度の拡充について」っていう参考資料がついていたんです。
これがけっこう驚きの内容で、新創業融資制度と新規開業資金の整理が行われるというものだったんです。
扇子: そうなんですか!でも、どんな内容だったんですか?
スタートアッププラザ新設とその概要
スタートアップサポートプラザは、日本政策金融公庫がシード・アーリー期のスタートアップを支援するために新設された拠点です。設置された背景には、政府が2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」を策定し、スタートアップへの支援を強化する方針があったことが挙げられます。スタートアップサポートプラザは、東京都、名古屋市、大阪市、福岡市の4都市に設置され、事業計画策定支援や融資相談などを行っています。
リリースを告知する資料では、スタートアップ支援のための融資制度が拡充されることも発表されました。
参考:https://www.jfc.go.jp/n/release/pdf/topics_240401b.pdf
新創業融資制度と新規開業資金のちがい
オオノ先生: まず、これまでの制度について説明しますね。
新創業融資制度も新規開業資金も、どちらも創業者向けの融資制度なんですが、これまでこの2つは併存していたんです。
扇子: なぜ2種類あったんでしょう?
オオノ先生: 日本政策金融公庫も、その時々でいろんな制度をやっていたために、パッチワークみたいに制度が付け足されていったんですよ。そのために似たような制度が2つ走ってしまっていたという事なんです。
扇子: えっ!?そうなんですか!?でも、内容はそれぞれ違うんですよね?
オオノ先生: そうですね。新規開業資金の方が歴史が長いんですが、こちらは創業から7年以内の人を対象とした制度で、通常は経営者保証が必要になります。一方、新創業融資制度は、税務申告を2期終えていない人を対象としたもので、経営者保証なしで融資が受けられるという特徴がありました。
扇子: 創業後の期間と、融資の際に経営者保証が必要かどうか、というところが大きな違いだったんですね。
オオノ先生: そうですね。ただ、やっぱり2つの制度があるのはわかりにくいということで、新規開業資金に一本化されることになったんです。でも、ここで問題になるのが、経営者保証の問題ですよね。
扇子: たしかに、これから事業を始める人にとって、経営者保証が必要だとかなり心配になっちゃいますよね…。
オオノ先生: そこで、これまでも新規開業資金と併用できる事になっていた、「経営者保証免除特例制度」を改正して、創業者でも使いやすくしましょうという事になったんです。
扇子: 経営者保証免除特例制度?
経営者保証免除特例制度
経営者保証免除特例制度は、日本政策金融公庫が提供する融資制度で、経営者の個人保証を不要とするものです。現在の要件は下記のようになっています。
1.次の(1)から(3)までの全ての要件を満たす方
(1)法人と代表者の方の一体性の解消が一定程度図られていることについて、公庫において確認ができること(注1)。
(2)税務申告を2期以上実施していること。また、公庫からの普通貸付または生活衛生貸付の借入がある場合は、取引状況に問題がないこと(注2)。
(3)次のいずれかの要件を満たす方
ア.最近2期の決算期において、減価償却前経常利益が2期連続して赤字でないこと
イ.直近の決算期において債務超過となっていないこと
2.物的担保の提供がある方であって、前1(1)の要件を満たす方
3.新規開業後おおむね5年以内かつ技術・ノウハウ等に新規性がみられる方等(注3)であって、前1(1)および(2)の要件を満たす方
4.取引金融機関において代表者保証の免除に関する協調対応が見込める方または取引金融機関から代表者保証を免除された借入の残高がある方
5.事業承継・集約・活性化支援資金または生活衛生事業承継・集約・活性化支援資金を利用される方
6.新たに事業を始める方または税務申告を2期終えていない方
7.ソーシャルビジネス支援資金を利用されるNPO法人の方
(注1)事業上の必要が認められない法人から経営者への貸付金等がないことをいいます。
(注2)公庫とのお取引の返済に、遅延がないことをいいます。
(注3)次のいずれかの事業を行う方をいいます。
・知的財産権等を利用した事業
・特定の補助金を活用した事業(ものづくり補助金等)
・VC・ファンドから出資を受けた事業
・エンジェル税制対象企業が行う事業
・J-StartupプログラムまたはJ-Startup地域版プログラムに選定された企業が行う事業
・事業再構築補助金を活用した事業
・新たな技術・サービス等を活用した事業で一定の成長性が認められるもの
出典:日本政策金融公庫(https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/keitoku.html)
経営者保証免除特例制度の改正のポイント
オオノ先生: 経営者保証免除特例制度の改正のポイントなんですが、まずは「新たに事業を始める方または税務申告を2期終えていない方」というところで、これまでの新創業融資制度に該当するような方が、この制度を使えるようになったんですね。
扇子: ホントだ!
オオノ先生: かつては、この要件が無かったので、その他の要件でクリアするしかなかったんですが、創業の方にはかなりハードルが高い内容でした。
オオノ先生: さらに、2期以上経ってしまっている方にも要件の緩和がありました。
例えば、かつては「2期連続赤字ではない」と「債務超過ではない」のどちらも満たすという要件でクリアすることになっていた部分が、「2期連続赤字ではない」と「債務超過ではない」のいずれかを満たすという要件になったりしています。
この他にも、新規開業後おおむね5年以内であって「VC・ファンドから出資を受けた事業」や「ものづくり補助金等を活用した事業」も、経営者保証免除特例制度を利用できるようになりました。
扇子: こうやって見ると、スタートアップだけではなくて、かなり幅広い方がこの制度を活用できそうですね。