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スタートアップを含む企業の目的が【企業価値の最大化】であることに異論はないでしょう。
結論から言えば、企業価値を高めるには【ROIC-WACC】を最大化することです。
ROICは【投資に対する利益】であり、企業が収益性を高めることで向上します。(実際にはこれが最も難しい)WACCは【加重平均資本コスト】で、負債と資本の調達コストの平均値です。
負債のコストは利息です。スタートアップでも2%前後、高くても4%程度です。
一方、資本のコスト(株主の期待リターン)は明示されていませんが、各種調査から一定の目安があります。
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・生命保険協会:望ましいROEは10~12%
・伊藤レポート:最低ROEは8%
・格付投資情報センター:短期9.2%、中長期5.9%
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これらは上場企業向けの水準であり、【スタートアップに対するVCの要求リターンはもっと高い】です。
米国公認会計士協会によるVCのIRR水準:
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①Startup:50~100%
②Early stage:40~60%
③Expansion:30~50%
④Pre-IPO:20~35%
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つまり【負債のコスト < 資本のコスト】という関係が成立します。
さらに利息は節税効果があるため、実質的な負債コストはさらに下がります。(6~7割程度に圧縮)WACCはこの2つの加重平均なので、【借入比率が高いほどWACCは下がる】のです。
WACCが下がればROICとの差が広がり、【企業価値が高まる】という構造になります。
したがって理論的には、【借入による資金調達を優先したほうが企業価値は上がる】という結論になります。
つまり、「すべての資金を借入で調達したほうがいい」という話になります。
しかし、この結論に違和感を覚える方も多いはずです。
「借金だらけの企業が本当に価値が高いのか?」と。
実際には借入が増えると、金融機関はリスクを見て金利を上げます。
その結果、【負債コストが資本コストを上回る】局面が訪れます。
この時点で、借入よりも増資が合理的になります。
つまり、【借入を優先し、負債コストが資本コストを超えたら増資を検討する】これが基本戦略です。
ただし、スタートアップにこの戦略をそのまま当てはめると問題が出てきます。
VCのIRR要求(50~100%)に対し、日本では法的に貸出金利の上限は15%(100万円超の場合)。
つまり、【借入金利が資本コストを上回ることは起きない】のです。
しかも15%もの金利を設定する金融機関はほぼなく、高くても7~8%程度。それすら貸してくれない可能性が高い。
よって【現実的な結論】はこうなります。
【スタートアップでは、まず借入を検討し、それが難しい場合に増資を考える】これは企業価値の最大化を目指した場合の現実的な資金調達戦略です。
ただし、創業直後から企業価値の最大化を前提に資本構成を考えるべきか、という根本的な問いも残ります。
(ここで言う資本構成とは、持株比率ではなく、負債と資本のバランスです)個人的には、とにかく資金提供を受けられる先に積極的にアタックするべきだと思います。
なお、経営が不安定なスタートアップが借入を行う際には、【経営者保証を外す】などリスクヘッジも重要です。(日本にはそのための制度も整備されています)