融資は収支のタイミングのズレを修正する手段 ファイナンス・トーク

毎日毎日融資支援をやってるわけですが、折に触れて、「融資についてどう思う?」と知人たちに投げかけてみています。

僕の想像以上にネガティヴな意見があったりもしますが、様々な意見はとても参考になります。
融資支援を生業としてますので、融資について僕の意見も表明しておこうと思います。

予めお伝えしておきますが、【長文注意】です。

融資とは何か

融資というのは「収支のタイミングのズレを修正する手段」だと、僕は思っています。

融資の話となると「どれくらい借りたら良いのか」「利息はどれくらいか」「どこから借りるべきか」という話題が中心となりがちですが、融資、つまり借入れをする最たる理由は「収支のタイミングのズレを修正する」ということです。

もっと簡単に言えば「お金が出て行くタイミングと、入ってくるタイミングを(できるだけ)合わせる」ということです。

このことは、あまりに自明なことと思われているのか、(融資支援が得意と称するコンサルタントや金融機関でさえも)なかなか言及されない点ですので強調しておきます。

ちょっと具体例で見てみましょう。

例えばある会社が7月1日に商品を100円で売ったとします。原価が70円なら、利益は30円です。

この調子でやっていけば、この会社は順調に成長していくかのように思います。

でも、現実はそれほど甘くはありません。

皆さんも「黒字倒産」や「勘定あって銭足らず」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、利益とお金の動きは異なります。

そして、利益ではなく、お金が尽きた時(これを資金ショートと言ったりします)会社は潰れるのです。

先ほどの例だと、商品を売ったのは7月1日ですが、(クレジットカードなどで支払われたとすると)実際にお金が入ってくるのは8月1日かもしれません。

同じく、商品を払い出したのは7月1日ですが、仕入先への支払いは6月1日かもしれません。

仮に5月31日に手元に50円しかなかったとすると、6月1日の仕入支払いをすることができず倒産します(単純化してますよ)。

この会社は決して成績の悪い会社ではありません。

お金さえ回れば、利益を30円計上して更に発展していったでしょう(雇用を作ったり税金を払ったり、もっと魅力的な商品を開発したりして社会をより良くしていったでしょう)。

潰れてしまったのは単に「お金が出て行くタイミングと、入ってくるタイミングがズレていた」というだけです。

そして、これを修正するのが融資です。

資金繰りと融資の役割

この会社が5月31日までに、銀行から50円借りていたとすると、5月31日のお金の残高は100円です。
100円あれば、6月1日の70円の仕入支払いもできます。

借入れの利息と元本返済で、6月1日と7月1日に1円ずつ取られるかもしれませんが、それでも資金ショートは回避されます。

もちろん利益は利息分減りますが微々たるものです(利息2%で借りたとすると、ざっくり50円×0.02÷12=0.083が利息で、元本返済が進めば更に少なくなります)。

そして、こうした資金繰りの問題は成長期にある会社ほど顕在化しやすいのです。

利益を30円→300円→3,000円と増やしているならば、売上は100円→1,000円→10,000円、仕入は70円→700円→7,000円となってるはずであり、資金の不足額もそれに伴って大きくなるはずだからです。

ここまではランニングコスト(対応する借入れを運転資金と言ったりします)のはなしですが、イニシャルコスト(対応する借入れを設備資金と言ったりします)でも同じです。

機械や店舗などの設備は、それを5年、10年と使うことで、少しずつ投資を回収、つまりお金を稼いでいきます。

でも、そうした設備を買う時のお金はイニシャルコストとして、購入時に支払います。

例えば、ある会社が新しく機械を買って製品を製造・販売するとしましょう。

機械は1,000円、製品を販売することで毎月30円の利益が計上されるとします。
(先ほどの例のような売上と仕入のタイミングのズレは考えないこととし、利益の分お金が入ってくるとします。また、機械を買うと減価償却をしますよね。減価償却はお金が出ていかない費用ですので、その分、利益より手元のお金は増えていきます。これを「減価償却の自己金融効果」と言ったりします。また、減価償却は利益を圧縮しますので、いわゆる「タックスシールド」効果も働きます。会計は奥が深いんです。が、これらも今回は考慮しません)

9月1日に機械を買ったとすると、お金の動きは以下の通りです。

9/1 -1,000
10/1 +30
11/1 +30
12/1 +30

お金の出て行くタイミングと、入ってくるタイミングが大きくズレていることがわかると思います。

何度も言いますが、お金の出入りのタイミングがズレると、資金ショートの危険性が高まりますので、これを避ける必要があります。

そこで、9月1日に銀行から1,000円借入れ、元本と利息で毎月10円を支払うことになったとしましょう。
その場合、お金の動きは以下のように変わります。

9/1 -1,000 +1,000 = 0
10/1 +30 -10 = +20
11/1 +30 -10 = +20
12/1 +30 -10 = +20

一番右の数字を見てくださいね。

借入をすることで、お金のズレが修正され、出入りが揃ったことがわかると思います(残高に与えるインパクトがならされたとも言えます)。

クドクドと述べてきましたが、これが経営に融資が必要な理由です。

利益とは別の動きをする、「お金が出て行くタイミングと、入ってくるタイミングを(できるだけ)合わせる」ことで、資金ショートを回避するのです。

金融機関との関係

さて、ここまでは教科書的な内容でしたが、実は融資にはもう一つ大切な理由があります。

それが、「金融機関に助けてもらえる存在となる」ということです。

街なかにある銀行へ行くと、立派なビルや最新のATMがあり、優秀そうな行員さんがいますので、「さぞかし、銀行は儲かっているんだろう」と思われるかもしれません。

もちろんそうなのでしょうが、彼らのビジネスモデルは「薄利多売」です。

今では銀行もさまざまな業務をしていますが、メインの売上はお金を貸し付けた先からもらう利息であることに変わりはありません。

そうです、企業が払う数%の利息が彼らの売上なのです。

例えば1億円を2%で貸し付けて、一年間の売上(受取利息)はたったの2百万円です(利益じゃないですよ、売上がですよ)。

50社に1社でも倒産して貸し出したお金が回収できなくなれば、2%の売上は吹っ飛びます。

したがって、金融機関は貸し出したお金が回収できなくなることを非常に嫌がります。

このことは、金融機関の融資姿勢に2つの側面から影響します。

1つは、「新規の貸出は潰れない先に限る」ということ。

つまり、潰れそうな先には貸せないのです(潰れそうというのは、極論すれば、利益がどうのこうのというより、資金が回ってるかどうかということです)。

そしてもう1つ、これが重要なのですが、「既に貸し出した先は、潰れてほしくない」ということです。

そのため、既に金融機関から借入をしているならば、新たに設備投資をするときだけでなく、会社の成長に資金繰りが追いつかない時、一時的な経営不振に陥った時、取引先からの入金が遅れた時、突発的な支払が発生した時などに資金を融通してくれる可能性が高いのです。

このように、金融機関が助けてくれる存在になっていれば、企業の寿命は伸びるでしょうし、健全に成長することが可能になるでしょう(念押ししておきますが、存続と成長は別物でしたよね。成長してる企業ほど、存続するのが難しいのです)。

そして、金融機関が助けてくれる存在になるには、彼らから融資を受けて「潰せない会社」になっておく必要があります。

そうした存在になれるのであれば、数%の利息は決して高くないと思います(社長、御社の交際費とくらべてみてください)。

なので、僕は融資支援をしてるんです。決して、悪の銀行の手先じゃありません(笑)

大企業に比べ、財務基盤の脆弱な中小企業は、金融機関の助けなしに生きのびることは不可能です。

無借金経営なんてことは、もっとずっと後に、銀行なんて頼らなくても潰れない状態になってから考えれば良いんです。

そして、このように考えていけば、最初の疑問である「どれくらい借りたら良いのか」「利息はどれくらいか」「どこから借りるべきか」にも一定の答えを出すことができます。融資にも怖い側面がありますからね。

が、ちょっと長くなりすぎてしまいましたので、その話はまた機を改めて。

世の企業の99%以上を占めると言われている中小企業が成長し、存続できるのであれば、少しは日本の経済も良くなると思っています。

僕にとっても、多くの社長さんにこの投稿が届いて、融資に対して「正しく怖がる」社長さんが増えていくのであれば、とても嬉しいことです。

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公認会計士・税理士
セブンセンス税理士法人 ディレクター

大学卒業後、有限責任監査法人トーマツへ入所。
金融インダストリーグループにて、主に銀行、証券、保険会社の監査に従事。
​トーマツ退所後は、資金調達支援、資本政策策定支援、補助金申請支援などで多数の支援経験を持つ。
また、スタートアップ企業の育成・支援にも力をいれており、各種アクセラレーションプログラムでのメンタリングや講義、ピッチイベントでの審査員および協賛などにも精力的に関わっている。